yakouseki

小 石2010/04/17

わたしね
あわい陽光のした
いつまでもゆるやかにささらぐ川の
浅瀬で無口な父さんといっしょに
小石を拾ったり積んだり洗ったりして
遊んでいたかったけど 



思えばいつだってそのままでいさせては
もらえなかったよね乾いた中州の石原に
雨滴ひとつふたつ千、
雷鳴に脅されたり警鐘もなく
水門ひらきみるみる川が増水したり



父さんあなたがかがんで拾った
そして小さなわたしのてのひらに
のせてくれたあなたの択んだきれいな小石たち
あれねみんなもうどこかへいってしまったけど
今でもよくおぼえている
色も模様も手ざわりも
惜しいゆがみも欠損も



とりわけ細い血の色の糸をくるくる巻いたような
石のこと



父さんあなたの孤独をわたしは
なにも知らなくて



遠い対岸に暮らし



あなたにもらった石を失くし



うまく大人になれないまま
さびしい神が作った陥穽に
何度でも落ちたわたしね
汚泥と腐敗した種に侵された底で
たくさん薬を飲んで
世界は消灯した



けれど
ほんの一瞬間
深夜の病院の淡い誘導灯のように
意識が灯ったとき
父さんわたしはあなたに
背負われていた



あの日あの川の中州でふいに幼いわたしの足首に
つかみかかった黒ずむ無数の水の手も
すでに怖くないあなたの背中



そんなふうに父さんあなたは
誰も知らないところで何人ものひとを負い
安全な岸に届けては嵩増す夜の川を
ひとりぼっちで泳いで帰った繰り返し
にがい水と誤解と不条理をたらふく飲んだことも
誰にも言わなかった



笑うと少し困った顔になる父さんわたしね



あわい陽光のした
今日もゆるやかにささらぐ川の
浅瀬で無口な父さんといっしょに
小石を拾ったり積んだり洗ったりして
遊んでいます




















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