yakouseki

幽 谷2010/07/10



足下に

谷底が透けてみえる

永い吊り橋を





中途半端に手なずけられた

けもののように

おどおどと

ついていく





未明のようなたそがれの奥





おびただしい雲の写真を止めていた鋲が

たえまなく眼からこぼれ





それをうけとめる奈落の眼が

しばたたく風に





橋はゆれて





もうこんなにも摩耗した

手すり





橋はゆれて





感情のうすい瘡蓋(かさぶた)の

ひきつれみたいな笑顔が好きだった

けれど





つられて

笑うと

足元から橋板の嗚咽が大きくうねり





みずからのおののきに

阻まれる





だからもう

遠ざかるものの頸(くび)に遠い日の

この指を巻きつけたまま





じっとして





記憶の糸で編まれたからだが最後まで

 (最初の結び目まで)

ほどけていく旋律を

 (そのこだまを)





聴いていよう



















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