yakouseki

頽 瀾2009/11/09

テールランプまばゆく連なる大河からあなたは常夜
の暗渠に入る。フロントガラスが押しわける漆黒の水
の束。髪のすべてが触角になり乱れながら鋭敏になるそ
の尖端であなたの眼球をさぐり苦しみを測る私のすべて
は水圧。せわしなく裏返る問いを堪えながらたゆみなく
同乗することの鎖きしむ残響に似た鼓動の連環。
ワイパーに挟まったままの枯葉が痙攣し唐突に罪に
堅牢な蓋がないと思う。しきりにアクセル踏む片
足くるおしい片足そうして永い暗がりに馴れ蒼白
い触手を研ぐあなたも現実の視力を退化させ視え
ないものを懐きこみ慰撫し私と同じ場面で笑ったり
おびえたりしていたのだが。それも幻想だろう。もう
ずいぶん思い出せない。笑いの断片のようにいつの
まにか失われている枯葉の細部。フロントガラスの片隅で
見守られなかった決意がわななきワイパーは依然
ちぎれて小さくなった枯葉の腹を抱いている。
 

濫れる水紋を占い自ら繊い炎のように動揺する
のは助手席にいるからだろう。操作しない私には海が
向かってくる。薄いパワーウィンドーに銀鱗。自ら命を
絶った恋人のことをあなたがふいに想い出すときの水流
の変化にも私は黙って巻かれる。操作しない。破損した
涙腺も補修しない。誰のものかも知れぬ涙痕。その
ような暗渠。確かめようのないことごとに枯れていく言の
葉をそれぞれが持ち帰り甘辛く煮ふくめるやわらかい自嘲
の湯気たちのぼる夜夜あなたも煙って本を読んでいた
だろう。日々の記憶の落丁ふぶく車窓に透ける私の身体
は海あるいは海のような都市へ向かうあなたの隣に未だ
発芽しない意志のように積まれ傾き。異国語の音楽流れ
ては途切れあなたのアクセル踏む片足くるおしく盲進
するあなたとあなたの本当の恋人はやがて私に見せる
のだろう幻の約束の尊さ。次項。淡く烈しい飛散する波の花。









.