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機関誌『舟』34号 つづき2019/06/16

『舟」34号
心に残った作品紹介のつづきです


ぼくの手に仮想的なるぼくの手をかさ/ねるやうに新雪に触る
加部洋祐「(    )」

春の宵霧(き)らふ小糠雨(こぬか)に包まれて物象(もの)も朧に蠢き昏る
川田章人「秋から春へ」

天麩羅にうす桃色の塩添へる 秘め事の色はうすき翠よ
北神照美「河津ざくら」

わたしのどうしようもないこのきもちをうけとったらこわしてください
北山星「雑多Ⅱ」

これからはどんどん草になつていくつぐなふいたいつぐなふいたい
黒沢忍「草」

夕色が飽和したからうす膜の扉を透り君は出て行く
座馬寛彦「Suger Hill」

漢文を刺繍の糸に纏はしめやがて家族と紡ぐ仕合はせ
新開貴典「「足立」CBX400F-Ⅱ」

肩車されて象の花子を見し日あり父のポマードかすかににほふ
菅野せつ子「いきものがたり」

遥けくも生ききたるかな遠景にピアノ嫌いの音楽学生
塚田沙玲「あせいえぶ」

そうだともそうじゃないとも言い切れず一夜明ければ鳥啼く梢
永田明正「フェイク・ソング」

「燃やして」と君に頼みし恋文は残らず灰になったのだろうか
野原てい子「寒紅梅」

恐ろしいほどの鈍(のろ)さで低空を行く軍用機まだ見え根雪
原詩夏至「シリアル」

さぶらひに川に落とされし難儀さへ行(ぎょう)と受け止む贖罪の旅
針谷哲純「光嚴院」

大波がさらつていつてまた浜に打ち上げられし小石いくつか
福田淑子「回想列車」

めのまへの虚空に千戸建つといふクレーンが無臭の空気まさぐる
藤永洋子「プロバンスの緯度」

いきなり現れ石の黒ぎつね炎とびこえいると思いつ
前田えみ子「旅うた悼歌」

真昼間の墓所の明暗つくづくと記憶通りに枝垂れる桜
水谷澄子「闇のいろどり」

寒天に漕ぐ
思念の
鞦韆
彼此の崖(きりぎし)
往きつ還りつ
一歳「五行歌 思回転」


購読会員の方々も精力的に作歌されており
よい刺激になります。



2019 夜光席

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